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大阪地方裁判所 昭和38年(ワ)1581号 決定

一、原告の申立にかゝる文書(以下申立文書という)を被告が所持するものであることは、被告の明かに争わないところである。よつて、以下、被告の主張について判断する。

二、被告の主張第一点について。

原告が文書の趣旨として陳述するところは要するに、申立文書には、被告の昭和三三年一月一日から同三八年五月末日における被告のメカニカルシールの販売高と被告の利得額が判明し得るに足る基礎事項の記載が存するというのであつて、その額が具体的に原告第三準備書面別表欄記載の金額に達するということは、原告においてそれが、申立文書の記載内容を具体的に主張してこれから具体的に算出し得たものであることを示さない本件においては、単なる原告の主張であつて、申立文書の趣旨が、その文書自体に右金額が具体的に記載してあるとか、或は、申立文書の記載から直ちに具体的金額として右別表記載の金額が算出し得る記載が存すると主張するものではないと解すべきである。そうして、民訴三一三条二号の文書の趣旨としては、文書の記載事項の概略要点の主張があれば足り、とくに本件の如き文書においては、被告の主張する様に個別的、具体的記述内容を相手方(申立人側)が知り得ることはほとんど不可能であり、若しこれを要するとせば、実用新案法第三〇条で準用する特許法一〇五条の活用は阻害されざるを得ないであろう。つまり、原告は、本件申立文書によつて、前記別表記載の主張額の範囲内である具体的価額が立証できればよいのであつて、それには、前記文書の趣旨程度の陳述をもつて足りその内容の具体的陳述を要しないと解する。なお、個々の文書については、その標目によつていかなる事項が記載されているかは自ずと明かである。

被告は民訴三一六条との関係において、かゝる解釈が許されないと主張するが、同条の趣旨は、相手方が文書提出命令に違背したものとしても、その効果は単に当該文書の記載内容についての申立人の主張を真実と認め得るに過ぎず証せんとする事実まで真実と認められるものではない(最高裁昭和三一年九月二八日第二小法廷判決、裁判集民二三号二八一頁、判例体系23一三七四の二頁所収)のであつてこれを本件でいえば、右のとおり、原告の前記別表記載の金額は単に主張額たる証すべき事実であり、たゞ本件申立文書を綜合すれば、被告の利得額が算出し得るということが原告の申立文書の記載内容についての主張たるに過ぎないから、被告のこの点の主張は失当である。そうして、前記特許法一〇五条に基く場合の如きは、前記の様に、原告の主張額の範囲内で、文書の提出を得て具体的な数額を確定立証することが許されると解するから、文書の記載内容の主張が数字的に具体性を欠くということから直ちにその申立を不適法とすることはできない。

よつて、この点の被告の主張は理由がない。

三、被告の主張第二点について。

原告の第一準備書面添付の第四図面が被告会社においてCSUVアウト型と称している構造のものであること、被告会社において製造販売するメカニカルシールには他の型が存することはいずれも原告の自認するところである。しかし乍ら、原告がはじめ差止請求の対象とした物品は訴状によれば、「別紙第一図面に示す如く密封管fの外端gを機器ケーシングa、bの出口cに臨ましめその減耗度を機外より検知せしめ得るようにした構造を有するメカニカルシール」であり、右原告の第一準備書面添付第四図面は、右訴状第一図面の各部の名称を明かにするため添付せられたもの(同準備書面第一丁裏八行目)というのであり、更に原告の第五準備書面(昭和三九年六月二六日付(昭和四〇年一二月一四日付、同訂正申立を含む))によると、結局、原告が本訴において侵害物件であると主張する物品は右第五準備書面別紙第一五図面太字部分に例示するような「密封管シールリング(6)の外端(同シールリングの端面)(7)を機器ケーシング(同ケーシング(1)に固定されたグランドカバー(2)の断面(3))の出口に臨ませ、その減耗度を機器の外から検知することができるようにしたアウトサイド型メカニカルシール及びこのメカニカルシールを部品とするポンプの一部」(同準備書面二、(1)及び同訂正申立書)だというのであり、一方、本件実用新案(登録第四一八三三九号)の登録請求の範囲は「図面に示す如く密封管1の外端2を機器ケーシング3の出口4に臨ましめその減耗度を機外より検知せしめ得るようにしたメカニカルシールの構造」というのであつて、結局、本件考案において密封管(1)を機器ケーシング(3)の出口に臨ませてその減耗度を機外より検知させ得るようにしたことは、メカニカルシールの密封端面において相接触する二つの部材すなわち静止部分と回転部分との摩耗の合計量を、密封管(1)の外端の移転によつて表示するようにしたことに外ならないと解し得る点とを併せ考えて、原告の主張を判断すると、原告が前記第一、第四、第一五図面において一応CSUVアウト型の図面を用いているけれども、これは、右「シールリング(6)(原告は本件登録請求の範囲にいう密封管(1)は、右図面の機械においてはシールリング(6)に該ると主張する)の外端(7)を機器ケーシングの出口に臨ませて、その減耗度を機器の外から検知することができるようにしたアウトサイド型メカニカルシール」の例示として用いたものであつて、仮に他の型であつても基本的に右構造を備えているアウトサイド型メカニカルシールは、侵害物件であると主張することは明かである。

そうして原告の援用する成立に争のない甲第五号証によると、その余の型の類別は、原告が反論するとおり、アウトサイド型に関する限り右の構造には直接関係がない分類と一応認め得るから、被告の原告の請求をCSUVアウト型のみに限ることを前提とした主張は採用できない。

四、被告の主張第三点について。

被告主張の証拠保全の結果は、第六回口頭弁論期日に原告より援用があつたところである。従つて、この結果取り調べられている文書については重ねて提出を求める必要はない。しかし乍ら、右は原告の申立文書中の一部に過ぎないから、右一部が取り調べられていることを理由にその余の分についてまで提出を求むる必要なしとすることはできない。

而して右証拠保全の結果、既に取調べてある文書は、

(1) 東京地方裁判所昭和三八年(モ)第三五八二号証拠保全申立事件につき、同裁判所民事二九部のなした文書提出命令とその取調べによる。

被告会社本店備付の

第七期(昭和三六年五月一日より同三七年四月末日まで)

売上帳 一冊

(2) 大阪地方裁判所昭和三八年(モ)第六五四号証拠保全事件につき、同裁判所第二民事部のなした文書提出命令とその取調べによる。

被告会社大阪出張所備付の

(イ) 納入期日帳 二冊中

岡福商店宛昭和三五年一一月二日より同三七年四月一五日迄、

共同機械宛九月二五日より二月一八日迄

神鋼フアウドラ宛昭和三七年八月一一日より同三八年一月七日迄

東亜燃料工業(株)宛昭和三七年一月一二日より同三九年三月一九日迄の部分

(ロ) 「手配依頼票、受注伝票、その他」と題する伝票綴一冊

(ハ) 「受注伝票、手配依頼票No.651―」と題する伝票綴一冊

(ニ) 「右同No.650迄」と題する伝票綴一冊

であるから、これらの分については、本件申立はその必要性を欠き却下を免れない。

五、被告の主張第四点について。

被告のこの点の主張は、前記CSUVアウト型のみが侵害物件であることを前提とした主張である(被告第五準備書面(昭和三九年一〇月一六日付)と乙第一五乃至一七号証参照)から採用することはできない。

六、以上、原告の申立は概ね容認すべきものであるけれども、被告は、本件申立文書を提出することによつて、いたずらに営業上の秘密について当該係争事件と関係のない部分についてまでこれが明かになることがある様な場合には、右提出を拒む正当な理由が存する(特許法一〇五条但書)と解すべきであり、前記被告の主張第二点の主張もかゝる主張を包含するものと解されるので、次にこの点を判断する。原告申立文書のすべてを照合するときは、被告会社の一切の業況を探知することも可能であるところ、被告会社は単に、本件係争物件たる前記アウトサイド型メカニカルシールのみならず、インサイド型メカニカルシール若しくはその部分品及びカーボン関係の製品をも取扱つているのである(証人永井弥太郎の証言)から、被告会社の一切の業況を把握することは必要のないことであり、その余の部分の業況を秘匿しようとする被告の主張は理由がある。また、原告は、文書の趣旨において、右申立文書により、被告会社が利益をどのように処分しているかが分ると主張するが、被告会社の利益処分の行方などはそれをアウトサイド型メカニカルシールの取扱に関する点(その様に分別すること自体不可能と思われるが)に限つても全く不必要であり、いたずらに被告会社の業況を明らかにしようとするもので許されない。

かゝる見地から勘案すれば、原告は結局、主張期間のアウトサイド型メカニカルシールの取扱高と、その直接経費又はアウトサイド型メカニカルシールの取扱による売買差益率を知り得る資料と、総売上高及び一般管理費を立証し得れば足ると解する。即ち、実用新案法第二九条第一項の侵害者の利益としては(甲)直接侵害物件の売上による利益と(乙)これに一般管理費を加味した利益の二つの考え方ができようが、甲説による場合は、アウトサイド型メカニカルシールの売上(取扱による売上の意)高から、その直接経費(材料費等)を差引くか又はこれにアウトサイド型メカニカルシールの売買差益率を乗じたものがその利益であり、乙説によるときは、そうして出たものから、一般管理費にアウトサイド型メカニカルシールの売上高の総売上高中に示める割合を乗じて得た金額を控除した残額が利益となる。

(算式)

(甲) 侵害物件売上高-直接経費=利得額

又は侵害物件売上高×侵害物件売買差益率=利得額

(乙) <省略>

よつて、原告申立文書中、右の算出に直接必要でない文書につきその提出を拒む被告の主張は理由がある。そこで以下、かゝる見地から申立文書を逐一検討する。

(1) 日記帳 成程基本的文書ではあるが、本件外の記載も多く含まれ、以下の文書で事足りるから必要がない(尤も、以下の文書の記載がとくに措信し難く、日記帳によるのでなければ真実を把握できない特段の事情が立証されたときは格別であるが、本件では未だその様な事情は存しない)

(2) 総勘定元帳及びその補助簿一切

前記の立場に立脚すれば、売上帳、手配依頼票、受注伝票綴、仕入帳、発注伝票綴、商品受払簿中アウトサイド型メカニカルシール並びにその部分品の取扱に関するもの及び、原材料受払簿、経費支払簿は理由がある。なお、原材料受払簿、経費支払簿についても本来はアウトサイド型メカニカルシールの取扱に関する部分に限らるべきかも知れないが、これらを分別することは不能であると思われる。またその余の分についてもアウトサイド型メカニカルシールの取扱に関するものに限定することは事実上、困難かも知れないが、これは、さきに証拠保全の際施行した様に、証拠調の方法に工夫を加えることによつて強ち不可能でもないであろうし、またそれによつて他の部分の記載が相手方の目にとまる程度の反射的不利益は被告も受忍しなければならないところと考える。しかし乍ら、在庫表、銀行表、現金出納簿、手形記入帳は前記要素を立証するにつき直接の関係はないと考えるのでこの部分の申立は理由がない。総勘定元帳それ自体も右補助簿によつて把握すれば充分であり、その余の記載が登載されているからこの申立は理由がない。

(3) 右帳簿記入の根拠となる一切の契約伝票その他。

当面必要がない。右(2)の文書の記載がとくに措信し難い情況が立証されれば格別であること(1)の日記帳と同様である。

(4) 製造指図書、仕入指図書、設計書及び附属図面。

前(3)同趣旨の理由により、当面必要がない。尤も製造指図書と仕入指図書については(1)の日記帳と同様であるが、設計書と附属図面については、利益の計算上これを必要とする理由についての主張疏明は十分でない。

(5) 法定決算書類及び税務署に対する申告の決算書控。

貸借対照表、損益計算書のみあれば、前記(乙)説による場合もその計算上の資料を求めることが可能であり、その余のものは必要がない。

なお、原告主張の貸借対照表、損益計算書は被告会社が公表しているものを指すと解せられ、これが税務署に対する申告の決算控と異り、且つ後者を措信すべしとの特別の事情については何ら疏明がないので重ねて後者を提出させる必要はない。

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